1.2 インターネットの光と影
1.2.1 情報社会とインターネット
情報社会の進展に伴い,情報ネットワークが整備され,産業社会や人々の生活に変化をもたらしている.特に,インターネットの登場(付録1参照)は,人々の日常生活や社会生活を大きく変化させてきた.
これまでの情報ネットワークの多くは,事業所や研究機関内部のコンピュータネットワークであるLANや,LAN相互を結合するWANなど,企業や団体の目的に沿った利用形態であった.しかし,インターネットは,個人レベルでの情報の送受信が可能であり,全世界的な情報ネットワークとして急速に発達し,政治・経済をはじめ,教育,文化,福祉医療のほか,日常生活のさまざまな分野において利用されるようになってきた.インターネットは,個人相互や,個人と企業や団体間のコミュニケーションを可能にした.そのインターネットという巨大な情報通信メディアが,今,われわれの社会に変革をもたらしつつある.
インターネットをはじめとする新しい情報メディアが社会に定着しつつある今日,情報社会の様相はこれまでとは変化してきた.情報社会は情報システム社会でもあり,いくつかの情報システムが互いにオンラインで結ばれ,情報ネットワークを形成している.人々は,インターネットを用いて多くの情報を集め,その中から自分のニーズや好みにあったものを選択できるようになり,生活環境や価値観の多様化が見られるようになった.
消費者としての情報に対する関わりも変化してきた.これまで消費者は,新聞やテレビなどを通じて生産者から一方的に流される商品の情報を受信し,判断して,商品を購入していた.しかし,インターネットなどの情報メディアの登場により,消費者自らが情報を検索・収集し,選択して商品を購入する形態が可能になり,徐々にではあるが,消費者の意識は変化してきている.
また,人々は自ら進んで情報発信したいという欲求を持つようになり,情報の流れは双方向へと変わりつつある.さらに,情報通信機器の著しい発達にともなって情報のデジタル化が急速に進み,文字だけでなく音声や画像,映像などもデジタル化して統合して提供できるマルチメディアが現れ,デジタル通信網の整備が進められている.
1.2.2 インターネットの利便性と問題点
インターネットは,私たちに利便性と可能性をもたらしている.インターネットにはさまざまなサービスがある.文字情報を送受信する電子メールやネットニュースに加えて,近年,文字情報の他に静止画情報,動画情報,音声情報などを統合して取り扱うマルチメディア環境を持つWWWの利用が増えてきた.インターネットの個人接続サービスを提供する数多くのインターネットプロバイダが出現し,企業や研究機関などの団体だけでなく,生活者個人も個人的なWebページを作成して公開するようになってきた.
電子メールを使っての個人間の通信はもとより,一つのテーマについて複数の人間で,距離や時差の壁を越えて議論し,意志を決定することが可能になった.また,衛星通信や高速の通信ネットワークによるビデオ会議システムも利用され,遠隔学習や遠隔会議が行われている.さらに,ネットワークを介して分散環境で行うコラボレーションシステム(Collaboration System:協調学習),情報機器の遠隔制御システム,目的の情報を自動収集するエージェント通信システムなども開発され,実用化されている.このような状況の中で,インターネットを利用した新しいビジネスやエンターテインメントが盛んになり,インターネットは,公共機関や研究機関だけでなく,民間企業や個人での利用が急速に増加し,その活用範囲が広がってきた.
高度情報化社会ともいえる現在,通信衛星や海底通信ケーブルを使用して瞬時にデータを送ることが可能であり,日本国内だけでなく海外からも24時間休みなく新しいニュースが流されてくる.モバイルコンピューティングを取り入れて,速報性に富む情報の送受信が行われるようになってきた.為替や株などの金融取引がネットワークを通じて行われるようになり,経済活動における電子決済が広まってきた.インターネット上での電子商取引も始まり,通信販売が盛んに行われて,人々の生活をより便利にしている.
このようなインターネットの商用利用や個人による情報発信が拡大すればするほど,一方では,セキュリティに関する問題が重要になってくる.ネットワークを介して外部のコンピュータに侵入してシステムを破壊する,情報を改ざんする,他人の通信情報を勝手に盗み見るなど反社会的行為に対する対策が課題である.不正アクセスによる情報取得,他人のアカウントの無断使用,他人のユーザID,パスワード,クレジットカード番号,銀行口座番号などの不正取得および不正使用によるトラブル,ポルノ・暴力などのWebサイトの問題など,今後解決しなければならない問題も多い.
インターネットで集められる世界中の情報や,テレビやラジオ,雑誌,新聞などから絶え間なく入ってくる多種多様,かつ大量の情報の中で,本当に必要なもの,信頼できる情報を見極める力を身につけ,様々なメディアをうまく使い分ける能力が,情報社会においては必要である.とりわけインターネットは,それぞれの家庭に急速に広がっており,人々の生活を豊かにする可能性を大いに秘めている.われわれは,このインターネットがもたらす豊かな生活を享受するためにも,正しく活用する術を身につける必要がある.
表1.1は,新聞記事(付録2参照)で取り扱われているインターネットに関わる光と影の部分を,政治,経済,教育,文化・メディア,社会・生活,情報技術のカテゴリーに分けて分類してみた.おもに情報技術の欄にある項目は,光でもなく影でもなく中立として考えられるものもあるが,新聞記事の内容で光と影に分類した.インターネットは,個人の自由な利用を最大限認めることを基盤にして発達してきた.したがって,個人の倫理意識が,そのまま反映されるメディアでもある.インターネットの未来は,インターネットにアクセスしている一人ひとりの姿勢にかかっているということもできるのである.
表1.1 新聞記事で取り扱われているインターネットに関わる光と影
おもに「光」の部分として 扱われている記事 |
おもに「影」の部分として 扱われている記事 |
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政 治 |
メールやWebによる市民の声の反映,電子選挙,行政機関の情報開示,遠隔地を結ぶ政治討論,情報公開 |
個人情報の漏洩,プライバシーの侵害 |
経 済 |
デジタルキャッシュ,電子商取引,SOHO,ネット広告,インターネットバンキング,ネットビジネス,インターネットショッピング,グループワーク,ビデオ会議 |
電子悪徳商法,電子ネズミ講,電子宝くじ,電子商取引の危険性,通信妨害 |
教 育 |
遠隔学習,体験学習,協同学習,異文化交流,学術データベース |
有害Webページ,フィルタリングの必要性,レイティングの必要性 |
文 化・ メディア |
情報検索,電子出版,インターネット図書館・博物館・美術館,ライブ演奏・合唱, Webニュース,コマーシャル,プッシュ型情報提供 |
著作権の侵害,違法コピー,情報操作,知的所有権の侵害,肖像権の侵害 |
社会・生活 |
ホームページによる情報発信,情報交換(メーリングリスト,ネットニュース),生活情報,インターネット電話,遠隔医療,アミューズメント,仮想コミュニティー |
インターネット犯罪,ネチケットの欠如,なりすまし,チェーンメール,データの改ざん,クラッカー,ストーカー |
情報技術 |
マルチメディア,デジタル,暗号技術の進歩,電子署名,コンピュータウィルスワクチン |
情報システムの故障,不正アクセス,コンピュータウィルス,メール爆弾 |